ある考え方では

あるの視点から

エントロピー入門:増大する無秩序

1. エントロピーの定義を再考する

エントロピーは簡単に言えば「無秩序の度合い」です。しかし、エントロピーは物理学ではもう少し厳密に定義されています。エントロピーは、ある系が取り得る状態の数に関する尺度です。数学的には、エントロピー
S
は次の式で表されます:

S=kBlnΩS = k_B \ln \Omega

ここで、

  • kBk_Bボルツマン定数
  • Ω\Omega は系が取り得る微視的な状態の数です。

この式は、特定のエネルギーで分子がどう配置されるかという「微視的状態」の数に関連しています。状態が多ければ多いほどエントロピーは大きくなります。

エントロピー - Wikipedia

ボルツマンの原理 - Wikipedia

(1) 【大学物理】熱力学入門③(エンタルピー) - YouTube

2. エントロピー増大則の背後にあるメカニズム

エントロピー増大則(熱力学第二法則)は、孤立系ではエントロピーが常に増加する、または一定に保たれるという法則です。この法則は、統計力学に基づいています。

エネルギーが閉じた系で均等に分布する方向に進むのは、「確率的に最も起こりやすいから」です。例えば、ガス分子が容器の一角に集まるよりも、容器全体に拡散するほうが微視的状態の数が多い(すなわちエントロピーが高い)ため、自然なプロセスとして起こります。

この考え方は、エントロピーが「乱雑さ」という意味以上に、エネルギーや物質の分布が均一に広がる方向に進む確率が高いことを示しています。

ただ、エントロピーは時間が流れているとした場合で、ある事象の上のことです。

3. 宇宙論におけるエントロピーの役割

エントロピーは、宇宙論においても重要な役割を果たしています。宇宙はビッグバンから始まりましたが、ビッグバン直後の宇宙は非常にエントロピー状態にありました。これは驚くべきことです。なぜなら、エントロピーは常に増加する傾向にあるからです。

では、なぜ宇宙は最初に低エントロピーだったのでしょうか?これは、現代の物理学における未解決の謎の一つです。ある理論では、宇宙がビッグバンの際に極端に均一で、物質がまだ分布していない「秩序だった状態」にあったためだと考えられています。しかし、銀河や星が形成される過程で重力が働き、物質が集まって複雑な構造が生まれ、エントロピーが増加していきました。

宇宙のエントロピー

4. ブラックホールエントロピー

ブラックホールエントロピーと密接に関係しています。1970年代にスティーヴン・ホーキングは、ブラックホールエントロピーを持つことを示しました。これはホーキング放射として知られる現象を通じて、ブラックホールがエネルギーを放出し、徐々に蒸発していくという理論です。

ブラックホールエントロピー SBHS_{BH} は、次の式で与えられます:

SBH=kBA4lP2S_{BH} = \frac{k_B A}{4l_P^2}

ここで、

この式は、ブラックホールエントロピーが事象の地平面の面積に比例することを示しています。ブラックホールが持つエントロピーは膨大であり、これが宇宙全体のエントロピーの大部分を占めるとされています。

ブラックホールの熱力学 - Wikipedia

5. エントロピーの増加がもたらす宇宙の未来

エントロピーの増加は、宇宙全体の未来にどのような影響を与えるのでしょうか?一つのシナリオが「熱的死」です。宇宙が拡大し続け、エネルギーが均一に分散していくと、最終的には宇宙全体が非常に低温で静かな状態に到達します。これは、エントロピーが極限まで増加し、もはや利用可能なエネルギーが残らない状態です。

しかし、他の理論では、宇宙が再び収縮する可能性や、多元宇宙の概念に基づいたシナリオも検討されています。これらの理論では、エントロピーが一方向に増加するだけではなく、全く異なる物理的法則が働く新しい宇宙が誕生する可能性があるとされています。

パラレルワールド - Wikipedia

膨張する宇宙の未来 - Wikipedia

宇宙の終焉 - Wikipedia

6. エントロピー情報理論

エントロピーは物理学だけでなく、情報理論にも重要な役割を果たしています。クロード・シャノンが1948年に定義した「情報エントロピー」は、メッセージに含まれる情報の量を表します。エントロピーが高いほど、そのメッセージは予測が難しく、多くの情報を持っていることになります。

この情報エントロピーの概念は、データ圧縮や通信の分野で重要な基盤となっており、宇宙におけるエントロピーの理解と通じるところがあります。情報理論と物理学は密接に関連しており、ブラックホールエントロピーや量子情報の研究においても、そのつながりが議論されています。

情報量 - Wikipedia

まとめ

エントロピーの視点から物事を見つめると、新たな側面が浮かび上がり、新しい捉え方が可能になるように思われます。今後は、さまざまな現象をエントロピーの観点で見ていきたいと思います。

エントロピーは元来、熱力学の概念ですが、情報科学をはじめとして、宇宙や生命科学にも適用され、その解釈が広がってきました。エントロピーは単なる無秩序やエネルギーの分散を示す法則にとどまらず、宇宙の進化や物理現象の根底に深く関わっているのです。

たとえば、ブラックホールやビッグバンの理解、さらには宇宙の最終的な運命に至るまで、エントロピーの影響は広範に及び、宇宙の仕組みを解明する重要な鍵となっています。エントロピーが宇宙をどのように形作り、未来にどのような影響を与えるのかを理解することは、物理学の発展にとっても欠かせない課題です。未解明の謎も多く残されており、今後もエントロピーの探求は続いていくでしょう。