はじめに
宇宙はどのように始まり、どのように終焉を迎えるのでしょうか?この問いは、物理学者や哲学者が長い間探求してきたテーマです。そして、その答えに迫るための鍵の一つが「エントロピー」です。エントロピーという概念は、宇宙の始まりと終わりを理解するための重要な役割を果たしています。今までは上から見ていたが、横から見ててみたらどう映るのだろうと言うわけです。このブログでは、そういった見方を紹介します。
1. エントロピーとは?
まず、エントロピーを再確認しましょう。エントロピーは、系が持つ無秩序やランダムさの度合いを表す指標です。物理学では、エントロピーが高いほどエネルギーが均等に分布し、使えるエネルギーが少ない状態を意味します。逆に、エントロピーが低いと、エネルギーが集中しており、秩序だった状態を指します。
熱力学の第二法則では、孤立系においてエントロピーは常に増加するとされ、これが「時間の矢」を一方向に進ませる力です。エントロピーの増加こそが、宇宙の運命に深く関係しています。
2. ビッグバンと低エントロピーの始まり
宇宙の始まりは時間の概念を含んだ約138億年前の「ビッグバン」です。この出来事で、宇宙は極めて高温で高密度の状態から急速に膨張し始めました。驚くべきことに、この初期の宇宙は低エントロピー状態にありました。
なぜ宇宙が低エントロピーで始まったのかは、まだ完全には解明されていませんが、ビッグバン直後の宇宙が非常に均一で、エネルギーや物質が秩序だった状態にあったと考えられています。宇宙は膨張しながら冷却し、星や銀河が形成され、エントロピーは次第に増加しました。宇宙は増大しているから、ビッグバンがあったという事が観測結果ですが、それゆえエントロピーは増大するのでしょう。
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3. 質量とエントロピーの増加
宇宙におけるエントロピー増加の大きな要因は「質量」です。重力が物質を引き寄せ、星や銀河を形成する過程では、一見秩序が生まれるように見えますが、実際には全体のエントロピーは増加しています。ブラックホールも非常に高いエントロピーを持つ天体であり、宇宙全体でのエントロピー増加に大きく寄与しています。
4. 宇宙の終焉:エントロピーの増大と「熱的死」
エントロピーが増加し続けると、宇宙は最終的に「熱的死」を迎えると考えられています。これは、エネルギーが均等に分散し、星やブラックホールが消滅し、何も動かない冷たい暗い状態に至ることを意味します。このシナリオでは、宇宙全体が静止し、エントロピーは最大となります。
5. 他の宇宙の終焉シナリオとエントロピー
他の終焉シナリオも存在し、いずれもエントロピーが重要な役割を果たしています。たとえば、「ビッグクランチ」は宇宙が収縮し、再びエントロピーが増加する過程です。「ビッグリップ」では、宇宙の膨張が加速し、物質が引き裂かれてエントロピーが極限まで増加する可能性が示唆されています。
6.ブラックホールとエントロピー
ブラックホールにおけるエントロピーは、「ブラックホール熱力学」として知られる物理理論の一部で説明されています。具体的には、ブラックホールにはエントロピーがあり、そのエントロピーはブラックホールの事象の地平面(イベントホライズン)の面積に比例します。
この関係は、1970年代にスティーヴン・ホーキングとヤコブ・ベケンシュタインによって発見され、「スチーブン・ホーキングのエントロピー公式」として知られています。この公式によると、ブラックホールのエントロピー S は以下の式で表されます。
S=4lP2kA
ここで、
この結果は非常に驚くべきもので、物理学におけるエントロピーは通常、システムの内部の微視的な状態の数と関連していますが、ブラックホールではエントロピーがその体積ではなく表面積に比例することになります。
さらに、ブラックホールは放射(ホーキング放射)を通じてエネルギーを失い、徐々に蒸発することが理論的に予測されており、その過程でもエントロピーの変化が関係しています。この放射は非常にゆっくりと進行するため、特に小さなブラックホールでない限り、現実的な時間スケールでは観測が難しいですが、この過程においてブラックホールのエントロピーは減少します。
放射が早まればビッグバンとなり、新しい宇宙の誕生となります。ブラックホールは次の宇宙への入口かも知れません。
7. 生命とエントロピーの関係
エントロピーの観点から生命を考えると、生命体は一見、無秩序に逆らう存在のように見えます。生命体は外部からエネルギーを取り入れ、秩序を維持し、自己組織化を行います。しかし、これはエントロピーを無視しているわけではありません。生命体はエネルギーを使うことで内部のエントロピーを低く保ちつつ、外部にエントロピーを放出します。
1. エネルギーの取り込みとエントロピーの放出
生命体は外部からエネルギーを取り入れることで、自身の内部で秩序を保ち、外部にエントロピーを放出します。食物や光合成によってエネルギーを得た生命体は、そのエネルギーを代謝や成長に使い、周囲の環境に廃棄物や熱を放出することで、外部のエントロピーを増加させます。
2. エントロピーの局所的な減少と進化
生命体は局所的にはエントロピーを減少させ、より高度な構造を作り出すことができます。生命の進化もその一例で、より複雑な生命体が形成され、外部からのエネルギーによってこのプロセスが支えられています。
3. 生命は散逸構造として機能する
生命体は、外部からエネルギーを吸収して秩序を維持する「散逸構造」として理解されています。この構造は、非平衡熱力学に基づくもので、エントロピーを生成しながらも秩序を維持することができます。
4. 生命の死とエントロピーの増加
生命体が死を迎えると、エネルギーの供給が途絶え、エントロピーが増加します。生命体の構造は崩壊し、無秩序な状態に戻ります。これは、エントロピーの法則が厳密に生命にも適用される例です。
まとめ
エントロピーは、宇宙の始まりから終焉までを理解するための基本的な概念です。ビッグバンから始まった低エントロピーの宇宙は、エントロピーが増加し続ける運命にあります。そして、その結果として、宇宙は最終的に「熱的死」や他のシナリオに到達するかもしれません。
しかし、宇宙のエントロピーの増大はまだ多くの謎をはらんでいます。なぜ最初に低エントロピー状態が生まれたのか、そして終焉後に新しい宇宙が誕生するのかどうか。これらの問いに答えることで、私たちは宇宙そのものの本質に一歩近づけるでしょう。