パラダイム

あるパラダイムを意識する

日本から世界へ!藤井風・Ado・YOASOBI

       はじめに

最近は藤井風、Ado、YOASOBIをよく聴いています。彼らが日本発のアーティストとして世界でも活躍していることは本当に素晴らしいと思います。過去に世界的な大ヒットといえば、坂本九の「上を向いて歩こう」がありましたが、海外では「スキヤキ・ソング」と呼ばれ、曲の内容とは全く関係のない名前で紹介されました。その成功も一度きりの単発的なものでした。
しかし現在の藤井風、Ado、YOASOBIには、海外でもリサイタルが成立するほどのヒット曲が複数あり、継続的に世界のリスナーを魅了している点が大きな違いだと感じます。

      歌謡曲とj-pop

謡曲の時代は、レコード会社やテレビ局のプロダクション番組制作者が強い影響力を持っていました。彼らが新人を発掘し、楽曲を制作し、テレビやラジオといったマスメディアを通じてプロモーションを行うという、ピラミッド型の構造が主流でした。このシステムは、ヒット曲を生み出し、巨大な産業として成長する一方で、アーティストが表現したいことよりも、売れるためのマーケティング戦略が優先されることも少なくありませんでした。

一方、J-POP、特に最近のTikTokYouTubeといったデジタルプラットフォームの普及は、この構造を大きく変えました。これらのプラットフォームでは、アーティストが自分の作品を直接リスナーに届けることが可能です。これにより、以下のような変化が起こっています。

 

   J-POPとデジタルプラットフォーム

近年、J-POPを取り巻く環境は大きく変化しました。テレビやラジオに頼る必要がなくなり、アーティスト自身がSNSを活用してファンと直接コミュニケーションを取ったり、ライブ配信で楽曲を披露したりするなど、プロモーションの手段は多様化しています。その結果、特定のプロダクションの意向に縛られることなく、アーティスト自身の個性や世界観を前面に打ち出すことが可能になりました。

ビジネスモデルも大きく変化しました。かつては莫大な制作費を投じて「大ヒット」を狙うことが中心でしたが、現在は多くのリスナーに「共感」を得てファンベースを拡大するモデルへとシフトしています。これは利潤追求がなくなったわけではなく、その形が変化したと捉えるべきでしょう。YouTubeでの広告収益、ライブ配信での投げ銭、オンラインコミュニティの会員費、さらにはグッズ販売など、多様な収益源を組み合わせることで、アーティストは安定的に活動を続けやすくなっています。

こうした仕組みによって、短期的なヒットを追い求めるのではなく、長期的にファンとの関係を築いていくことが重視されるようになりました。その象徴的な例がYOASOBIの大ヒット曲「アイドル」です。この楽曲はアイドル文化そのものを批判的に描いており、従来のようにアイドルビジネスで利益を上げてきた大手プロダクションや制作会社であれば扱うことはなかったでしょう。20世紀では世に出にくかった作品が、デジタル時代の自由な発信環境によって広く支持され、国際的なヒットにまで成長したのです。

       歌謡界の歌手

謡曲文化は日本独自の物であったように思います
  • 謡曲は、日本独自の文化と深く結びついて発展した音楽ジャンルです。その独自性は、以下のような点にあります。
  • 演歌や民謡の影響: 独特の「こぶし」や「節回し」といった、日本的な歌唱法やメロディーラインが特徴です。
  • 叙情的な歌詞: 季節の移り変わりや、日本の風土、人情などを繊細に描いた歌詞が多く、日本語の持つ響きやニュアンスを最大限に活かしています。
  • メディアとの密接な関係: テレビやラジオの歌番組、レコード会社主導のプロモーションによって、大衆文化として定着しました。
これらの要素は、当時の海外のポピュラー音楽とは大きく異なっており、海外に直接輸出されることはほとんどありませんでした。歌謡曲は、どちらかというと「国内で完結する文化」だったと言えるでしょう。
 
インターネットとSNS: YouTubeTikTokといったプラットフォームが、国境を越えて音楽を届けることを可能にしました。アーティストが自ら世界に向けて発信できるようになったことが、大きな要因です。アニメとの結びつき: 「アニメ」が世界的なカルチャーとなったことで、アニメの主題歌を通じて日本の音楽が海外のリスナーに知られる機会が飛躍的に増えました。これは、海外のリスナーがJ-POPに触れる最も一般的な入り口の一つになっています。謡曲が「日本独自の文化」として、内向きに発展した音楽だったのに対し、現代のJ-POPは**「世界を意識した音楽」**として、インターネットを駆使して海外に積極的にアプローチしています。の違いは、日本の音楽産業のビジネスモデルが、国内市場を前提としたものから、グローバルな視点を持つものへと変化したことを示していると言えるでしょう。

                 J-POPの海外進出

一方、現在のJ-POPの海外進出は、歌謡曲の時代とは全く異なる状況にあります。

 現代のJ-POPは、洋楽のポップスやK-POPなど、海外のヒットチャートのトレンドを意識した楽曲制作が行われています。リズムやサウンド、ミックスなどがよりグローバルな基準に近づいており、海外のリスナーにも受け入れられやすい音楽になっています。

それには、YouTubeTikTokといったプラットフォームが、国境を越えて音楽を届けることを可能にしたことが大きかったと思います。アーティストが自ら世界に向けて発信できるようになったことが、出来るようになりました。

アニメとの結びつき: 「アニメ」が世界的なカルチャーとなったことで、アニメの主題歌を通じて日本の音楽が海外のリスナーに知られる機会が飛躍的に増えました。これは、海外のリスナーがJ-POPに触れる最も一般的な入り口の一つになっています。

    戦後日本の世界的ヒット曲

1960年代
坂本九上を向いて歩こうSukiyaki)」1961)
1963年に全米ビルボードHot100で 1位 を獲得。

日本人歌手として唯一の全米1位曲。

世界中でカバーされ、今でも「日本の歌といえばこれ」という存在。

1980年代

YMOイエロー・マジック・オーケストラ

ライディーン」「テクノポリス」などが欧米で話題に。

シンセサイザーを使ったサウンドで、のちのテクノ/エレクトロの礎を築いた。

全米ビルボード200にアルバムがランクイン。

寺尾聰ルビーの指環」(1981)

世界チャート入りは限定的だが、アジア圏では広く人気。

1990年代

X JAPAN

欧米でのチャートインは少ないが、ビジュアル系というジャンルを世界に広めた。

特に「Endless Rain」「Kurenai」が海外ファンに浸透。

久石譲 & 宮崎駿アニメ音楽(特に『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』)

サントラがヨーロッパやアジアで高評価。

千と千尋』主題歌「いつも何度でも」は海外ファンに人気。

2000年代

宇多田ヒカル「First Love」(1999〜2000)

アジア圏で爆発的ヒット(台湾・香港・韓国)。

世界的な売上は800万枚以上、日本の歴代アルバム売上1位。

ドラゴンボール」「セーラームーン」「ポケモン」などアニメ主題歌

海外のファンの間で「CHA-LA HEAD-CHA-LA」(影山ヒロノブ)などが大人気。

2010年代

BABYMETAL「ギミチョコ!!」(2014)

YouTubeで海外から火がつき、米英の大型フェス出演。

Billboard World Albumsで1位。

Perfume

欧米ツアー成功、日本のテクノポップを世界へ。

米津玄師「Lemon」(2018)

主にアジア圏で大ヒット、YouTube再生10億回超。

2020年代

YOASOBI「夜に駆ける」:YouTube & Spotifyで世界的に再生され、アジア圏で大人気。

Ado「うっせぇわ」「新時代(ワンピース映画)」

特に「新時代」はアジアで大ヒット。

藤井風「死ぬのがいいわ」

TikTokを通じてインド・東南アジア・中東で大流行。Spotifyグローバルチャート入り。

Aimer「残響散歌」

鬼滅の刃』の影響でSpotifyグローバルチャート上位に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌手 音楽的要素 歌詞的特徴 文化的背景 世界で受ける理由
YOASOBI ポップスにエレクトロニカ要素を融合、透明感ある旋律 小説を原作にした物語性、情景描写に強み ネット発の音楽ユニットとして若者文化に直結 メロディーが普遍的に美しく、言語を超えて感情を伝えられる
Ado ロック・メタル的なシャウトから繊細な声まで幅広い表現 強烈で個性的、自己表現や感情を直球で伝える歌詞 ボカロ文化とアニメ映画『ワンピース』などとの親和性 独自の歌唱スタイルと圧倒的なエネルギーが国境を越える
藤井風 ジャズ、R&B、クラシックなどを取り込み、即興性の高い演奏 岡山弁と標準語をシームレスに融合、ユーモアと哲学性を併せ持つ 幼少期からピアノに親しみ、YouTubeでの弾き語りが原点 日本的な方言文化と国際的な音楽感覚を融合し、オリジナリティとして受け入れられる

 

         おわりに

日本の音楽にはもともと素晴らしい力があります。過去にも優れた歌手は数多く存在しましたが、大手プロダクションに所属しなければ番組制作会社の目に留まらず、なかなか表舞台に出られない時代が長く続きました。プロダクションの意向に従わなければ活動の幅が限られ、個性や表現が抑え込まれてしまうことも少なくありませんでした。

しかし現在は、アーティスト自身がSNSや配信サービスを通じて直接リスナーとつながることができます。発信内容を誰かにおもねる必要もなく、自分らしさをそのまま音楽に反映できるようになった結果、より自由で質の高い作品が次々と生まれているように感じます。

「急に才能ある歌手が増えた」のではなく、過去からずっと存在していた優れたアーティストたちが、ようやく自由に羽ばたける環境が整ったのだと思います。