パラダイム

あるパラダイムを意識する

指数で語られる景気と、生活で感じる不況

       はじめに

近年の日本経済は、「株高」「景気回復」「企業収益の過去最高」といった明るい言葉で語られることが増えました。一方で、多くの人が感じているのは、物価上昇による生活の圧迫や将来不安です。このギャップはなぜ生まれるのでしょうか。

本稿では、日本経済をめぐる言説が誰の視点から語られているのかという点に注目し、株高・円安・財政支出・専門家言説を整理しながら、現在の日本経済の実像を考えてみます。

         

    経済「専門家」の所属機関

日本で影響力を持つ経済専門家の多くは、金融機関、証券会社、系列のシンクタンク、あるいは元官僚や政権の理論を作ってきた人達です。これは偶然ではなく、経済データに日常的にアクセスし、発言の場を持てる人材が、そうした組織に集中しているからです。

ただし、ここで重要なのは、彼らが必ずしも国民生活の側に立っているわけではないという点です。金融市場、政策当局、大企業の視点で経済を見れば、景気は比較的良好に映るかもしれません。しかし、家計の可処分所得や実質賃金に目を向けると、見える景色は大きく異なります。

     日本の「富裕層」とは

日本の富裕層に関するデータとして、野村総合研究所の分類が頻繁に引用されます。これは金融資産額による分類であり、金融機関にとっては合理的な指標です。

しかし、金融資産は「運用可能な資産」であって、生活の余裕や安心感をそのまま示すものではありません。不動産や事業資産、さらには将来不安を含めた生活実感は、この指標からは抜け落ちます。

その結果、「日本には意外と富裕層が多い」「格差は言われるほどではない」という言説が生まれますが、これはあくまで金融機関の視点で切り取られていて、国民の視点とは大きく異なります。例えば増税すれば国家は豊かになり、国民は貧しくなります。ただ直接的に増税では支持を無くし、政権が終わってしまいます。そこでステルス税が使われます。現在の物価高は典型的なステルス税です。値上げはエネルギーと食品だけなので、そこにさえ対策すればいい、と言う人もいますが、国民の実感から大きく外れています。それが考え及ばないことと、彼のyoutubeの再生回数が多い事を危惧しています。もし、彼の意見を支持する人が多い場合、それで経済が悪くなって一番困るのは支持する人だと思います。

      YouTube時代の経済言説

近年、YouTubeなどを通じて経済解説を行う人が増え、若い世代ほどそうした情報に触れています。分かりやすく、断定的で、安心感のある説明は再生数を伸ばしやすい傾向があります。

その中で、「株高は政権の成果」「日本経済はうまく回っている」といったメッセージが繰り返されます。しかし、これは意図的な嘘というより、政策当局や金融市場と整合的な説明が選ばれやすい構造の問題でしょう。

結果として、生活者の実感とのズレが拡大していきます。

       株高の本質は円安である

現在の日本株高を理解するうえで重要なのは、外国人投資家の視点です。彼らが主に参照するのは日経平均ではなくTOPIXであり、さらに重要なのはドル建てで見た日本株の割安感です。

円安が進めば、日本株は自動的に割安になります。つまり、最近の株高は、成長戦略の成果というより、為替の反射的な結果と見る方が自然です。

これは「良い・悪い」の問題ではなく、因果関係を正確に捉える必要があるという話です。

       実質金利マイナスの世界

 

現在の日本では、物価上昇を考慮した実質金利はマイナスの状態が続いています。この環境下では、預金や国債といった安全資産で資産を保有していても、購買力は時間とともに目減りしていくことになります。数字上は減っていなくても、静かに削られている――いわば「何もしていないのに痩せる財布」です。

一方で、株式市場に目を向けると、トヨタ自動車三菱UFJフィナンシャル・グループといった日本経済の中核企業でさえ、2025年の終値ベースで配当利回りは3%を超えています。これらの企業が倒産する事態は、日本経済そのものの崩壊を意味するほど極端なケースでしょう。少なくとも通常の経済環境では、一定の信頼性を持つ収益源と考えられます。

このように考えると、株式を購入する行為は、しばしば言われるような「株高を煽る投機行動」ではありません。むしろそれは、通貨価値が低下する環境下で、資産の実質価値を守ろうとする防衛的な選択だと言えます。「物価高対策」でなく物価高にならない施策が必要だと思います。

       「政府の借金は国民の資産」なのか

よく言われる「政府の借金は国民の資産」という表現は、正確には「政府の負債は民間部門の資産」です。そして、その民間部門の中心は大企業と金融機関です。

政府支出は、補助金や委託費、公共事業として企業に支払われます。中小企業は直接の受益者になりにくく、多くは下請けとして組み込まれます。そして株を上場している企業の利益は積み上がります。しかし、大企業では派遣労働者や非正規が主体で正規労働者はあまり居ません。

この構造の中で、統計上は景気が良く見えても、家計の実感が伴わない状況が生まれます。

          おわりに

現在の日本経済は、指数を見れば好調に映ります。しかし、円安と物価上昇の中で、生活者の実質的な豊かさは必ずしも改善していません。

問題は「景気が良いか悪いか」ではなく、誰の視点で語られている経済なのかです。指数で語られる経済と、生活で感じる経済。その間にある溝を直視することが、これからの議論には必要ではないでしょうか。

株価は上がっています。しかし、それが私たち一人ひとりの安心につながっているかどうかは、別の問いなのです。こうした中で「物価高対策」「責任ある積極財政」を旗印とした高市氏への期待が高まりました。それも若者を中心です。はたして経済政策は成功するのでしょうか。