はじめに
『サピエンス全史』では、『栽培とは植物の家畜化である』と述べられています。これは、ホモサピエンスが自身の都合に合わせて植物を品種改良し、競争相手となる他の植物を淘汰することで、生態系を変化させてきたことを意味します。動物と植物は相互に複雑に影響して、生態系を作ります。意識して継続的に栽培するのは、人だけです。こうした栽培によって特定の植物の生育範囲が拡大し、それがまた人間の生活様式に影響しました。人間社会の変化の元となりました。栽培するためには肥沃な土地が必要です。それが確保できた人は定住しました。平らで肥沃な土地は川の周りです。しかし、川は時々氾濫します。従って、耕作の為には治水が必要となり大きな集団が出来ました。また、氾濫後には再度土地を決めるために、幾何学や空の科学が進展しました。

このような背景から、古代文明は主に川のほとりで発達しました。特に、四大文明は川沿いの肥沃な土地を巡って戦いや争いを繰り返しながら、その地域で繁栄していきました。食料と戦いは人々の生存に直結する切実な問題であり、そのため技術や社会構造は急速に進展しました。こうして文明は主食となる植物を基盤に人口を増加させ、大規模な社会を築いていったのです。
しかし現代では、偏在が深刻な問題として懸念されています。このようなテーマについて考察し、主食とされる植物に焦点を当てたブログを作成しました。

主食とは
主食の要件は、以下の特徴が挙げられます。第一に、主なエネルギー源として一日の総摂取カロリーの大部分を補う食品であること、第二に、大量生産と安定供給が可能で、地域の気候や土壌条件に適し、広く利用できる作物であることが求められます。第三に、保存性が高く、加工や調理が容易で、多様な料理に応用できることが挙げられます。また、栄養価を他の副食で補いながら、バランスの取れた食事の基盤となる役割を果たします。
世界中の主食
1. 麦類

小麦(Triticum spp.)
- 普通小麦(Triticum aestivum):パン、パスタ、うどんに利用
- デュラム小麦(Triticum durum):マカロニ、スパゲッティに利用
- 古代小麦:スペルト小麦、エインコーン小麦、エマー小麦など
大麦(Hordeum vulgare)
ライ麦(Secale cereale)
燕麦(Avena sativa)
2. 米類

稲(Oryza sativa)
- ジャポニカ米:短粒種、もちもちした食感(日本、朝鮮半島、中国東北部)
- インディカ米:長粒種、さらっとした食感(東南アジア、インド)
- 例:バスマティ米、ジャスミンライス
- ジャバニカ米:中粒種、東南アジアやインドネシアで栽培
3. トウモロコシ(Zea mays)

- デントコーン:飼料やコーンスターチの原料
- フリントコーン:ポレンタやグリッツに利用
- スイートコーン:食用(コーン缶詰、冷凍コーン)
- ポップコーン:膨らむ特性を持つ
4. ソルガム(Sorghum bicolor)

5. その他穀物
キビ(Setaria italica)

- 黄キビ、黒キビ:アフリカ、インドで利用
アワ(Panicum miliaceum)

- 小粒で、雑穀米や粥に利用
ヒエ(Echinochloa spp.)

- 冷涼地で栽培され、雑穀の一部
チア(Salvia hispanica)

- 種子を水や食品に混ぜる
アマランサス(Amaranthus spp.)

- 小粒で栄養価が高い
6. イモ類(主食として)

ジャガイモ(Solanum tuberosum)
- 多様な品種(男爵、メークイン、キタアカリなど)
サツマイモ(Ipomoea batatas)
- ベニアズマ、ベニハルカ、シルクスイート
キャッサバ(Manihot esculenta)
- タピオカの原料
タロイモ(Colocasia esculenta)

- ポリネシア、東南アジアで利用
ヤムイモ(Dioscorea spp.)

- 熱帯地域で主食
7. その他の植物(地域特有)
ソバ(Fagopyrum esculentum)

- そば粉として麺やパンケーキに利用
バナナ・プランテン(Musa spp.)

- 主にアフリカや中南米で主食として利用
貨幣と食品
米のように日本で貨幣として用いられていました。特定の地域や文化で交易や税の代わりとして使われた植物の以下に代表的な例を挙げます。
1. 米(Oryza sativa)

- 地域:日本、中国、東南アジア
- 用途:日本では「年貢」として農村から納められ、事実上の貨幣的役割を果たしました。また、米俵や石高という単位で土地の生産性や財産が評価されました。
- 備考:米は保存性が高く、広い範囲で価値が認められていました。
2. トウモロコシ(Zea mays)
- 地域:南北アメリカ
- 用途:アステカやマヤ文明では、トウモロコシが交易や儀式の供物として用いられました。トウモロコシそのものやその加工品が価値を持っていました。
- 備考:食糧であると同時に、宗教的な象徴としても重要でした。
3. ココア豆(Theobroma cacao)

- 地域:中南米(アステカ文明、マヤ文明)
- 用途:ココア豆は貨幣として使用され、小取引に使われました(例:100粒で奴隷1人を購入できたという記録も)。
- 備考:飲料(チョコレートドリンク)の原料としても高い価値を持っていました。
4. 香辛料

- クローブ、ナツメグ、シナモンなど(多くの植物が該当)
- 地域:インドネシア、インド、ヨーロッパ
- 用途:中世ヨーロッパでは、これらの香辛料が金のように高価とされ、貨幣や資産の一部として使われることがありました。
- 備考:長距離交易で特に重要な価値を持ちました。
5. 茶葉(Camellia sinensis)

- 地域:中国、チベット、モンゴル
- 用途:茶葉が圧縮された「茶砖(ちゃせき)」が交易や税の代わりとして利用されました。
- 備考:保存性が高く、軽量で運搬しやすいため貨幣に適していました。
6. 塩の生産植物(塩草)

- 地域:中東、アフリカ
- 用途:塩草から製塩する技術が発達した地域では、塩そのものが貨幣として使用されることがありました。
- 備考:塩は植物の派生産物として扱われますが、生活必需品であり、古代から高価値でした。
7. タバコ(Nicotiana tabacum)

- 地域:アメリカ(特に北米先住民と植民地時代)
- 用途:乾燥タバコの葉が貨幣として使われ、ヨーロッパ人との交易においても利用されました。
- 備考:嗜好品としての価値も相まって通貨代わりとなりました。
8. ナッツ類
- ベテルナッツ(Areca catechu)

- 地域:東南アジア
- 用途:儀式や交換手段として使用。
- コーラナッツ(Cola acuminata)

- 地域:西アフリカ
- 用途:地元の交易で重要な品目とされました。
9. サゴヤシ(Metroxylon sagu)

10. ヤシの実やその派生物

- コプラ(乾燥ココナッツ)
- 地域:南太平洋諸島
- 用途:交易品として使用。
- ココナッツ油も価値を持ちました。
11. アワやキビ

- 地域:アフリカ、インド
- 用途:食料としてだけでなく、税の形で集められ、貨幣的役割を果たしました。
さいごに
世界では、飽食と飢餓という矛盾が同時に存在しています。飽食は主に先進国に見られ、過剰な食料消費や浪費が特徴です。この結果、肥満や糖尿病といった健康問題が増加し、さらに食品ロスの拡大という課題も生じています。先進国では、高学歴者は食生活に節度を持つ傾向がある一方で、低学歴者は節度がないことが多く、生活習慣病のリスクが高まっています。
一方、飢餓は発展途上国で深刻な問題となっています。現在、約7億人が栄養不足に苦しんでおり、これには貧困、紛争、気候変動といった複合的な要因が絡んでいます。さらに、発展途上国の多くの人々は安価な労働力として利用され、食料の生産を担っていますが、その恩恵を受けることは少なく、厳しい生活を強いられています。
資本主義の経済構造もこの問題を助長しています。商品は「安く作り、高く売る」ことで利潤を得る仕組みになっており、発展途上国で安価に生産された食品が物価の高い先進国で販売されるという構図が一般的です。さらに、利潤がいい食物を生産します。多くの食料を生産していた土地がそういった耕地に替わりました。生産地の人々は飢餓に喘ぎ。自分たちで生産したものが先進国の人々が消費し、余ったものは廃棄されるという現実が広がっています。
現在の世界では、全人口を十分に賄う食料が生産されているにもかかわらず、分配の不均衡が飽食と飢餓の同時発生を引き起こしています。この矛盾を解決するためには、食品ロス削減や農業技術の革新、政策改革、そして個人の意識改革が必要です。弱肉強食ではこういった問題は解決できないように思います。
