はじめに
情報とエントロピーは、私たちの身の回りや社会でどのように関連しているのでしょうか。エントロピーは一見すると難しい物理の概念ですが、実は情報とエントロピーの関係を理解することで、現代のデジタル社会や生物学、さらには人間の行動までをも読み解くことができます。
1. エントロピーとは?
- エントロピーの基本:エントロピーは物理学で「無秩序」や「ランダムさ」を示す指標です。たとえば、冷たいコーヒーに暖かいミルクを入れると、やがて均一に混ざって一体化します。このプロセスは不可逆的で、混ざりあった後の状態に戻ることはありません。これがエントロピーの増大の一例です。
- エントロピーの法則:自然界ではエントロピーが増加する傾向にあり、すべてのシステムが「均一」または「無秩序」に向かって進むと言われています。
2. 情報とエントロピーの関係
文明とは、エントロピーの増大を抑制する仕組みを持つことで成り立っているとも言えます。そして、その抑制量の多さが文明の発展度合いを示します。少し抽象的ですが、これを理解するために、情報とエントロピーの関係について具体例を挙げてみましょう。
- 情報理論のエントロピー:検索エンジンは膨大なデータの中から、与えたキーワードに合うデーターを瞬時に選び出します。皆さんもegdeやgoogleはよく使っていると思いますが、それらは検索エンジンでので、日常的に体験しています。これがあるからインターネットが普及しました。
- 情報理論の中で「エントロピー」は、情報の「不確実性」や「多様性」を表します。メールでも件名が「重要なお知らせ」よりも「ミーティング延期:10月25日午後3時から」に具体的である場合、後者の方がエントロピーが少なく、伝える内容が明確です。
- 情報が秩序をもたらす方法:情報が正確に整理され伝達されると、受け取る側は混乱なく行動できるため、結果としてエントロピー(無秩序)は減少します。たとえば、電車の運行情報が共有されなければ多くの人が不確実な状況に置かれますが、リアルタイムで情報が提供されれば、混乱を防ぐことが可能です。また、工業製品を購入する際にも、スペックや価格が簡単に比較できれば、購入者の意思決定はスムーズになります。インターネット普及前は、比較のために多くの店舗を訪れる必要がありましたが、現在は町の家電店から大型店舗、通販へと販売の形態が進化し、選択の場が広がりました。エントロピーは情報量に依存するため、こうした情報の整理と提供は無秩序を抑える重要な要素となっています。
エネルギー管理も文明のエントロピー抑制の例です。自然状態でエネルギーは無秩序に拡散しますが、発電や電力網、効率的な電力供給システムが整備されることで、必要な場所に安定してエネルギーが供給され、エントロピーの増大が管理されています。このように、文明の進歩はエントロピーをいかに抑制できるかに依存しており、より高度な情報とシステムを持つ文明ほど秩序を維持しやすくなっているのです。
3. 情報がエントロピーを抑える実例
- インターネットと情報の整理:膨大な量の情報が日々インターネット上に生まれていますが、検索エンジンやフィルタリング技術がこれを整理し、私たちは必要な情報を容易に見つけることができます。無秩序な情報の海から秩序を生み出している例です。
- AIと情報処理:AI技術は膨大なデータを短時間で整理し、エントロピーを抑えています。たとえば、物流業界ではAIが供給と需要を予測し、配送の効率化を図ることでエネルギーの無駄を減らしています。
4. 情報とエントロピーのトレードオフ
- 情報の増加がもたらすエントロピー:一方で、情報が増えすぎることも混乱を招きます。たとえば、SNSのタイムラインには大量の情報が流れますが、どの情報が重要か見極めるのが難しくなります。この場合、むしろ情報が「ノイズ」としてエントロピーを増やしているのです。
- 選択的な情報取得の重要性:私たちは膨大な情報から何を選ぶかが重要で、無秩序な情報の中で「必要な情報」を見つけることが秩序をもたらします。
5. 社会とエントロピー:秩序はエネルギーを使う
- 秩序の維持にはエネルギーが必要:社会での秩序も、エントロピーを抑えるために多くのエネルギーが使われています。たとえば、交通システムを維持するためには信号、警察、インフラ整備などが必要です。情報によって秩序を作ることはできても、その維持にはコストがかかります。
- 情報がもたらすリスク:情報の拡散が早い現代では、不確実な情報(デマや誤情報)がエントロピーを増やし、社会の秩序を揺るがすリスクもあります。
6.生体とエントロピー
生体は遺伝子として情報を持っています。
- 生命の維持と進化は、秩序を生み出しエントロピーを局所的に低く保とうとする現象として捉えられます。エントロピーは「無秩序さ」を指し、自然界では閉じた系においてエントロピーが増大し、やがて均一化していく方向へ進む傾向があります。これは、熱力学第二法則が示す通りです。
- 生命は外部からエネルギー(太陽光や食物)を取り入れることで、自身の構造や機能を維持するための秩序を作り、内部のエントロピーを抑えます。具体的には、細胞や組織の構造、代謝、情報の複製といった仕組みによって、エントロピー増大の流れに逆らうような秩序ある状態を維持しています。こうした「秩序」は、個々の細胞内や生物全体にとって低エントロピーの状態です。
- 一方で、エントロピー増大の法則自体を破るわけではなく、むしろ生命はエントロピーを周囲に「放出」することで自身の秩序を維持しています。たとえば、エネルギーを消費し、熱や老廃物を排出することによって外部のエントロピーが増加し、システム全体としてはエントロピーの増大が成り立っています。
- 生物はエントロピーの法則通り多様化しますが、しかしこのために地球の環境を作り地球の恒温性を保ちます。
- 宇宙物理学者が「生命」を考えると――エントロピー、量子力学から自己複製へ(戸谷 友則) | ブルーバックス | 講談社(1/4)
- 分子レベルで生物の仕組みを 解き明かすことが、新たな物理法則の発見につながる - 青山学院大学 | AGUリサーチ
- 4.生態系循環 | エントロピーと物質循環――地球環境問題への一つの視点―― 中澤 明 | Seneca 21st
おわりに
近年、インターネット上には虚偽や誇張された情報が溢れ、特にアクセス数を収益に変えるサイトでは「羊頭狗肉」の状態が散見されます。このような膨大な「ごみデータ」の中から信頼できる情報を見極めるのは困難を伴うため、常に疑念を持ち、その情報が発信されている意図や背景を考慮することが重要です。
正確な情報は、無秩序を抑制し秩序を保つ役割を果たしますが、そのためには事実確認や検証が欠かせません。一方で、インターネット上のエントロピー(無秩序)は増大しており、この情報のカオスが社会に影響を与えています。情報とエントロピーが絶えずバランスを取りながら私たちの生活に関わることを意識し、賢明に情報を取捨選択して向き合っていく姿勢が求められます。