考え方

あるの視点から

民主主義の歴史と発展

 

はじめに

現在、権威主義と民主主義を対比し、民主主義=善、権威主義=悪と語られることがよくあります。しかし、北朝鮮の正式な国名は「朝鮮民主主義人民共和国」(조선민주주의인민공화국, Chosŏn Minjujuŭi Inmin Konghwaguk)です。そこで、民主主義とその系譜について調べてみました。

古代の民主主義

古代ギリシャ

古代ギリシャの民主主義は、特にアテネにおいて、その形が具体的に発展し、後世の民主主義の基盤となりました。古代ギリシャでは直接民主主義でしたが、その民主主義を説明します。

  • エクレシア(民会)
    構成:アテネ市民であれば誰でも参加できる、直接民主主義の最も重要な機関でした。
    機能:法律の制定、戦争や和平の決定、重要な行政の決定を行いました。
    手続き:民会は年に40回程度開催され、市民が自由に発言し、議論を行い、決定を下しました。
  • ブーレ(五百人評議会)
    構成:選挙によって選ばれた500人の市民で構成されました。各部族から50人ずつ選出されました。
    機能:民会での議案を準備し、日常の行政を管理しました。
    手続き:評議会は年中無休で運営され、毎日異なるメンバーが議長を務めました。
  • ディケステリオン(裁判所)
    構成:市民の中からくじ引きで選ばれた陪審員で構成されました。陪審員の数は通常501人かそれ以上でした。
    機能:法律の解釈と適用、裁判の判決を行いました。
    手続き:陪審員は裁判の証拠を検討し、多数決で判決を下しました。
  • 市民の参加
    市民権:成人男性市民のみが政治参加の権利を持っていました。女性、奴隷、外国人(メトイコイ)は市民権を持ちませんでした。
    リトゥルギア:裕福な市民は公共の費用を負担する義務があり、これはリトゥルギアと呼ばれました。
  • 選挙とくじ引き
    選挙:重要な役職(将軍など)は選挙で選ばれました。
    くじ引き:多くの役職(評議会のメンバーなど)はくじ引きで選ばれ、公正性と市民の平等を保障しました。
  • メリットとデメリット
    メリット:直接民主主義は市民の直接的な政治参加を促進し、政治的な平等と公正を目指しました。また、多様な意見を反映させることができました。
    デメリット:市民の数が限られていたため、全市民の意見を反映するのが難しく、特定の富裕層や影響力のある人物が実際の権力を握ることもありました。また、女性や奴隷、外国人など多くの人々が排除されていました。
  • 結論
    古代ギリシャの民主主義は、市民が直接政治に参加する形態として、後世の民主主義の基盤となりました。特にアテネの制度は、その後の政治思想や制度に大きな影響を与えました。現代の代表民主主義とは異なり、直接民主主義の形を取りましたが、その理念と精神は現在の民主主義にも生き続けています。

古代ローマ

古代ローマの民主主義は、現代の民主主義とはかなり異なります。古代ローマには、特に共和政時代(紀元前509年〜紀元前27年)において、一定の民主的要素が存在しました。

  • 元老院(Senatus):   ローマ共和政の中心機関であり、貴族層で構成されていました。元老院は政策決定や戦争の宣言など重要な決定を行いました。
  • 民会(Comitia):   ローマ市民が集まって議論し、決定を行う機関です。民会には「部族民会(Comitia Tributa)」と「 centuria 民会(Comitia Centuriata)」があり、それぞれ異なる方法で議決を行いました。部族民会は主に市民の部族単位で構成され、 centuria 民会は軍事単位で構成されていました。
  • 執政官(Consul):   年ごとに選出される2人の執政官がローマの最高権力者で、行政と軍の指揮を執りました。執政官は選挙によって選ばれ、権力は定期的に交代しました。
  • 平民会(Concilium Plebis):   平民(パトリキ)と呼ばれる社会階層が議論する機関で、平民の権利を守るための法律や政策を決定しました。
  • 民主主義的要素:市民の参加: 民会などを通じて、ローマ市民(主に男性自由民)は政治的決定に関与する機会がありました。
    選挙制度: 執政官やその他の官職は選挙によって決定され、市民は自分の代表を選ぶことができました。

市民の制限: すべてのローマ市民が政治に参加できるわけではなく、特に女性や奴隷は除外されていました。また、元老院や貴族層が強い影響力を持ち、実質的には権力が集中することが多かったです。共和政時代の後、アウグストゥスの支配の下でローマ帝国が成立すると、共和制の民主的要素は減少し、帝政体制へと移行しました。

中世の民主主義

中世ヨーロッパにおける「民主主義」は、古代ローマや現代の民主主義とは大きく異なります。中世ヨーロッパは封建制度の時代であり、社会や政治の構造が異なっていましたが、いくつかの形態で市民参加や権利拡張が見られました。

都市の自治:

   中世の都市では、自治権を持つ市民コミュニティが存在しました。特に中世後期のヨーロッパでは、商業と手工業が発展し、市民たちは「市民権」を持ち、都市の政治に関与することができました。これには、町議会や市長選挙などが含まれます。

イングランドの大憲章(マグナ・カルタ):

   1215年にジョン王によって署名された大憲章は、王権の制限と貴族や教会の権利を保障するもので、法の支配や市民の権利についての重要な前例となりました。これにより、王の権力が制限され、貴族や教会の意見が重要視されるようになりました。

国民議会や議会制度の発展:

   イングランドでは、13世紀から「議会制度」が発展しました。国王の相談機関としての「大議会」があり、これは後に「イングランド議会」に発展し、貴族や聖職者、そして後に平民も参加するようになりました。これが近代議会制度への道を開くことになりました。

教会の影響:

   教会も社会の中で重要な役割を果たしており、教会会議やシノドなどで教会の政策や問題についての討議が行われました。これは一部、政治的な意思決定にも影響を与えることがありました。

制限と課題

封建制度

封建制度により、土地と権力は貴族層に集中しており、一般市民や農民の政治参加は非常に限定的でした。

社会階層

 身分制度や階級によって、政治や社会における発言権が制限されていました。

中世ヨーロッパの民主的要素は、後の近代国家における民主主義の発展に影響を与える重要な基盤となりましたが、当時の社会構造と権力の分配は、現在の民主主義と比較すると大きく異なります。

近代の民主主義

近代の民主主義は、18世紀後半から19世紀初頭にかけて、特にアメリカ独立革命(1776年)やフランス革命(1789年)などの歴史的な出来事を背景に発展しました。この時期に確立された基本的な理念や制度は、今日の民主主義の基盤となっています。

近代民主主義の特徴

  • 人民主権:
       権力の正当性は人民に由来するという考え方です。政府は人民の代表として機能し、その権限は人民から委任されたものであるとされます。
  • 法の支配:
       法は全ての人々に平等に適用され、政府もその例外ではありません。これは権力の濫用を防ぎ、公正な社会を実現するための基本的な原則です。
  • 基本的人権の尊重:
       個人の自由や権利が保護されることが重要視されます。言論の自由、信教の自由、集会の自由などが含まれます。
  • 権力分立:
       行政、立法、司法の三権が独立して機能し、相互に抑制と均衡を保つことで、権力の集中を防ぎます。
  • 代表制:
       国民は選挙を通じて自らの代表者を選び、その代表者が政府を構成します。これにより、直接民主主義が難しい大規模な社会でも民主主義の原則が維持されます。

近代民主主義の歴史的背景

  • アメリカ独立革命:
      1776年にアメリカ植民地がイギリスからの独立を宣言し、新しい国家としてアメリカ合衆国が誕生しました。この革命は、民主主義の原則を強調した新しい政治体制を構築しました。
  • フランス革命:
      1789年に始まったフランス革命は、絶対王政を打倒し、自由、平等、友愛の理念を掲げました。この革命は、ヨーロッパ全土に民主主義の波を広げる契機となりました。


近代民主主義の影響

近代民主主義の理念と制度は、19世紀以降、世界各地に広まりました。多くの国々がこのモデルを採用し、今日では多くの国家が民主主義体制を採用しています。しかし、各国の歴史や文化に応じて、民主主義の具体的な形態は異なることがあります。また、民主主義の運用には様々な課題も存在し、継続的な改善が求められています。

現代の民主主義

 

普遍的選挙権

普遍的選挙とは、全ての成人市民に選挙権が与えられる選挙制度のことを指します。性別、財産、教育、宗教、民族などによる制限を設けず、全ての成人が平等に選挙に参加する権利を持つことが特徴です。

普遍的選挙の歴史

普遍的選挙権の確立には、長い歴史と多くの闘いが伴いました。以下はその主要な歴史的な出来事です。

  • 18世紀後半から19世紀:
       普遍的選挙権の理念が広がり始めたのは、アメリカ独立革命(1776年)やフランス革命(1789年)の時期です。この時期には「全ての男性市民」に選挙権を与える動きが強まりましたが、実際には多くの制限が残っていました。
  • 19世紀後半から20世紀前半:
       ヨーロッパやアメリカで労働者階級や女性が選挙権を求めて闘い、次第に選挙権の拡大が進みました。例えば、イギリスでは1832年の改革法や1918年の女性参政権の拡大がありました。
  • 20世紀前半:
       20世紀前半には、多くの国で女性に選挙権が認められるようになりました。例えば、ニュージーランド1893年)やフィンランド1906年)などが先駆けとなり、他の国々もこれに続きました。
  • 20世紀後半:
       植民地の独立や公民権運動を通じて、多くの地域で普遍的選挙権が確立されました。アメリカ合衆国では1965年の投票権法が黒人市民の選挙権を保障し、南アフリカでは1994年にアパルトヘイトが廃止され、全ての市民に選挙権が与えられました。

普遍的選挙の意義

  • 民主主義の基礎:
       普遍的選挙権は、民主主義の基本原則である「人民主権」を実現するための不可欠な要素です。全ての成人市民が平等に政治に参加できることは、政府の正当性を保証します。
  • 公正と平等:
       全ての市民に選挙権を与えることは、社会の公正と平等を促進します。特定のグループに対する排除や差別を防ぐことができます。
  • 政治の正当性と安定:
       幅広い市民の支持を得た政府は、その正当性と安定性が高まります。市民が自分たちの代表を選び、自分たちの意見が反映されることで、政治に対する信頼が向上します。


普遍的選挙権は、現代の民主主義社会において基本的な権利として広く認識されており、多くの国で憲法や法律によって保障されています。

民主主義の課題と未来

民主主義には、理想的には市民の意見を反映させ、公正な社会を目指す制度ですが、実際にはいくつかの課題も存在します。以下に主要な課題を挙げてみます。

  • 政治的無関心と低投票率:多くの民主主義国家で、特に若者や低所得層の間で政治への関心が低く、投票率が低いという問題があります。これにより、特定のグループの意見が過剰に反映されることがあります。
  • 選挙の不平等選挙制度が公平でない場合、特定の地域や経済的地位を持つ人々に有利な結果をもたらすことがあります。例えば、選挙区割り(ゲリマンダリング)や金銭的な影響が選挙結果に大きな影響を与えることがあります。
  • ポピュリズムと極端な意見:民主主義では、多様な意見が尊重される一方で、ポピュリズムや極端な意見が台頭することがあります。これにより、政策の実行が難しくなったり、社会が分断されたりすることがあります。


  • 政治的腐敗:政治家や官僚が私利私欲を追求することによって、公共の利益が損なわれる場合があります。腐敗は民主主義の基本的な信頼性を脅かし、政治への信頼感を低下させます。
  • 情報の偏りとフェイクニュース:情報の偏りやフェイクニュースの拡散は、市民が誤った情報に基づいて投票する原因となり、民主的な意思決定に悪影響を及ぼすことがあります。


  • 経済的不平等:経済的不平等が拡大すると、特定のグループが政治的に強い影響を持つようになり、貧困層の意見が政治に反映されにくくなることがあります。これにより、社会全体の不満が高まり、政治的不安定が生じることがあります。
  • 効率性の欠如:民主主義は、多くの意見を考慮し合意を形成するプロセスが必要であり、時には意思決定が遅くなることがあります。緊急時や複雑な問題に対処する際に、迅速な対応が求められることがあります。
  • 代表性の問題:民主主義において、選出された代表が必ずしも全体の意見を反映するわけではなく、一部のグループや地域の利益が優先されることがあります。これにより、全体のバランスが取れない場合があります。

これらの課題に対処するためには、民主主義の制度やプロセスの改善、教育の充実、情報の透明性の確保などが必要です。民主主義は完璧ではありませんが、これらの課題に取り組むことで、より良い社会を目指す努力が続けられています。

さいごに

古代の民主主義奴隷制度に支えられていました。労働生産性が低かったためだと思います。

オーストラリアにおける白豪(白人は支配層)主義政策は、正式には1973年に廃止されました。1960年頃までは先住民=アボリジニはスポーツハンティングの対象とされ、疫病が持ち込まれたことと相まって、多くの部族が説滅しました。生き残った人々も奴隷にされました。アメリカの人種差別は最近でも問題となっています。

民主主義は、多数決だけでなく、少数意見への配慮も重要視します。すべての意見を完全に反映することは不可能ですが、様々な意見を聞き、議論を通じて合意形成を目指すプロセスは不可欠です。

専門性と政治のバランス: 複雑な政策決定には、専門的な知識が必要となります。一方で、政治は国民の代表である議員が議論し、決定する場です。専門家と政治家の連携が求められます。

代表制の限界: 議員は有権者の代表ではありますが、全ての有権者の意見を完全に代弁することは困難です。

  • 直接民主主義の導入: 一部の政策決定に、国民投票など直接民主主義の要素を取り入れることで、より多くの国民が政策に関与できる機会が増えるかもしれません。
  • 議員への情報公開: 議員の活動や政策決定プロセスを透明化し、国民がより多くの情報を取得できるようにすることが重要です。

議員の任期

  • 任期の長期化と短縮: 任期を長くすれば、政策の安定性を確保できますが、民意の変化に対応できなくなる可能性もあります。
  • 中間選挙: 長期にわたる任期の中で、国民の意見を反映させるために、中間選挙を導入するのも一つの方法です。
  • 国民の発意による解散: 国民が直接、議員の解散を求めることができる制度を導入することも考えられます。

その他の視点

  • 政治参加の活性化: 投票だけでなく、政治に関わる様々な活動(デモ、請願など)を促進し、より多くの国民が政治に参加できる環境を整えることが重要です。
  • 政治教育の充実: 子供の頃から政治について学び、将来の有権者として必要な知識やスキルを身につけることが重要です。
  • 多様な意見を反映する仕組み: 政党だけでなく、市民団体や専門家など、様々な主体が政策決定に関与できるような仕組みを構築することが重要です。

民主主義は人間を前提とした制度です。同じホモサピエンスであっても、民族や宗教によっては人として見なされないことがあります。そのため、狩りの対象にされたり、人種問題が生じたりするのです。

より良い民主主義を実現するためには、多方面からの絶え間ない努力が求められます。